シルビア
「……離して、」
「見ないで、って言うから。こうすれば見えないでしょ」
そういう意味じゃない。そう思いながら、抱き締める腕を無理には離せない自分がいる。
あの日以来、三年ぶりに抱き締めるこの腕を、離せるわけもない。
「……でもさ、凛花のかっこ悪い姿なんて、もう散々見てきたよ。弱いところも、意地っぱりなところも、全部」
囁く声は、優しく穏やかなもの。
抱き締める腕は力強く、肩と胸板がごつ、と骨っぽい。
……少し、痩せた。
そんなほんの少しの変化だって、すぐ分かる。
だってこの3年間ずっと、こうしてまた抱きしめられる瞬間を待っていたのだから。
なのにどうして、今この瞬間、こんなにも胸が痛むの?
いくら抱き締められても、他人でしかないと分かりきっているからか。この期待も、一瞬だけのものと気付いているからか。
自分で離れていったくせに、どうしてこうも優しくするの。
だから私は、余計にこの感触を離したくないと願ってしまう。
心の奥では、わかっている。
どんなに頑張っても、例え誰かに抱かれても、私はここから進めなどしないこと。
愛しい。
消えない気持ちを、まだそう呼ぶこと。