シルビア



「……離して、」

「見ないで、って言うから。こうすれば見えないでしょ」



そういう意味じゃない。そう思いながら、抱き締める腕を無理には離せない自分がいる。

あの日以来、三年ぶりに抱き締めるこの腕を、離せるわけもない。



「……でもさ、凛花のかっこ悪い姿なんて、もう散々見てきたよ。弱いところも、意地っぱりなところも、全部」



囁く声は、優しく穏やかなもの。

抱き締める腕は力強く、肩と胸板がごつ、と骨っぽい。



……少し、痩せた。

そんなほんの少しの変化だって、すぐ分かる。



だってこの3年間ずっと、こうしてまた抱きしめられる瞬間を待っていたのだから。

なのにどうして、今この瞬間、こんなにも胸が痛むの?



いくら抱き締められても、他人でしかないと分かりきっているからか。この期待も、一瞬だけのものと気付いているからか。

自分で離れていったくせに、どうしてこうも優しくするの。

だから私は、余計にこの感触を離したくないと願ってしまう。



心の奥では、わかっている。

どんなに頑張っても、例え誰かに抱かれても、私はここから進めなどしないこと。



愛しい。

消えない気持ちを、まだそう呼ぶこと。






< 101 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop