シルビア
「あ、でも確か宇井さんも行ったんでしたよね?」
「えっ!」
突然出てきた『宇井さん』の名前に、思い浮かぶ望の顔。それだけで、心臓はドキッと音を立てる。
「あ、う、うん……いた、ねぇ」
「宇井さんは彼女出来たんですかねぇ、あの人軽いようでガード固いらしいからなぁ」
「へ、へぇー……」
話していると「葛西さーん、ちょっと」と呼ばれ、彼はそのまま呼ばれた方のデスクへと向かっていく。
……はぁ、名前だけで意識してしまうなんて。どうなの、これ。
思い出すのは、あの夜抱きしめてくれた腕の力強さ。ごつごつと、ひんやりとした彼の感触。
って、思い出すな!私!恥ずかしくなってくる!
今思うと、みっともなさすぎる。
30歳にもなって、他の男の誘いにも乗れず、元彼に助けられて抱きしめられて……おまけにその後、自宅まで送ってもらっちゃったし。
心の中ではぶつけたい言葉も沢山あるのに、上手く言えない。
代わりに出てくる不器用な言葉も、その瞳は優しく見つめて抱きしめるから。……愛しいと、想ってしまう。
やっぱり、思うほど強くなんてなれないみたいだ。
またひとつ、小さな溜息がこぼれた。
「凛花さん、今考えてる新作のデザイン見てもらってもいいですか?」
「あ、うん。いいよ」
続いて声をかけてきたのは、後輩のひとりである女の子。
商品営業部の中でも商品デザインを主に受け持つ彼女から手渡される紙を見れば、そこにはネックレスやヘアピンなどのラフ画が描かれている。
ヘアピンは、シルバーをベースに並んだジルコニアに、差し色で赤いバラの花と蕾の飾り。
色違いのゴールドを見ても、品があって可愛らしい。