シルビア
「うん、すごく可愛いと思う。秋物?」
「はい。本当は5月までに間に合わせたかったんですけどどうも無理で……なら秋の始まりに向けて色調整とかしようかなと」
「そうだね、ジルコニアの部分を何個かパールや赤や紫の石に変えたりしてみると秋物っぽさは出るかも」
あくまでひとつの意見として伝える内容を、彼女は手元の紙にせかせかとメモをする。そんな些細なしぐさのひとつから伝わってくるのは、仕事に対する真剣さとやる気。
それを感じながら横目でちら、と見れば、少し離れた位置にあるデスクの織田さんは、「アクセの勉強」と言いながら先程からずっと雑誌を見ている。
……異動してきて一ヶ月近く経つけど、一向にやる気が見えないんだよね。
いちいち注意する気力もなく、視線を手元の紙に戻す。
「でもこれ、赤いバラの花だけじゃなくて蕾もいくつか飾られてるんだね」
「はい、本当は蕾メインでデザインしたかったんですけど、どうも映えなくて」
「蕾メインで?どうして?」
バラの花、というならよくあるから分かる。けど、蕾?とその目の付け所に首を傾げた。
「バラって、その花の色や状態によって花言葉が違うんです。赤いバラの蕾の意味は『あなたに尽くします』って意味らしいんです」
「へぇ……よく知ってるね」
「はい、前に宇井さんから話の流れで聞いたんです」
「え!?」
の、望!?
またも突然出てきたその名前に、一瞬驚いてしまうものの、すぐ我に返り「ごほんっ」と咳払いをひとつして誤魔化した。