シルビア
「う、宇井さんが?」
「はい。『バラは花の部分によっても意味が違うんだよ』って。その時に『俺もこの前女性にバラあげたばっかり。真っ赤な花に緑の葉がついた綺麗なやつ』って言ってて」
またあの男は余計なことをペラペラと……!
さすがに私の名前は出さなかったのだろう。けれど、『女性にバラをあげた』と自ら言えてしまうあたりが、また軽い印象だ。
そんな細かい花言葉を知っているのも、女の子との話題作りのためかもなんて、疑いまで出てきてしまう。
「てっきり恋人にあげたとばかり思ってたんですけど、でもその後調べたらちょっと違うのかなーって」
「え?」
ちょっと、違う……?
その言葉の意味が分からずにいると、彼女は不思議そうに口をとがらせる。
「だって、赤いバラの花言葉は『あなたを愛する』ですけど、葉の花言葉は『あなたの幸福を祈る』ですよ?なーんか、彼女相手には他人ごとっぽいっていうか……」
『あなたの幸福を、祈る』
その言葉に、初めてあの花に隠された意味を知る。
幸福を祈る。私の、幸福を。
ねぇ。それじゃあまるで、他人のことのよう。
“幸せにするのは自分じゃない”と、線を引かれたかのよう。
……当たり前、か。
優しくされてすぐ忘れてしまうけれど、向こうにとっての私はただの『元彼女』だもん。
別れた相手の幸せを祈るのは、自然なこと。
なのに、期待するなんて。
勝手に期待して落ち込んで、そんな自分に泣きそうだ。その感情をぐっと堪えると、鼻の奥がツンと痛む。
涙に歪む顔を誤魔化すように、唇をギュッと噛むと、あまりの力強さに口の中には鉄の味が広がった。