シルビア



「えーと、品番NC12-0035……あ、本当だ。このネックレスかわいいですねぇ」

「って、新商品だから全部目を通しておくように言ったはずですけど」

「いやぁ、ついうっかり」



まるで初めて見た、とでもいうようなその反応に、またこの男は!とついイラッとくる。



「うっかりって……営業に来る人間が商品の確認もしておかないでどうするのよ!バカ!」

「ごめんなさーい」



怒る私とそれを流す望。ついいつも通りのやりとりをしてしまってから、取引先の前だということを思い出し、「ごほん」と咳払いをして気を取り直す。

けれど、そんなやりとりを見ていた彼女は、私たちにふふと笑った。



「おふたり、仲良いんですね」

「え!?い、いえ別に良くなんて……」

「またまた〜。三好さんのそんな素の顔初めて見ましたもん」



いつもなら、取引先の前で『バカ』なんて言葉当然使わない。けれど望相手につい出てしまった素の態度に、恥ずかしくなってしまう。



「そうなんですよ〜、本当は仲良しなんですけどね。三好さんツンデレだから人前だとどうしても冷たくて」

「余計なこと言ってないで早く発注書書く」



一方でへらへらと私の肩を抱く望に、その手の甲をぎゅっとつねると、目の前の彼女は一層おかしそうに笑った。



……あれ。

その時、ほんの少し感じた違和感。すぐにパッと離されボールペンを持ち直すその右手を見れば、どこか微かに震えている。

ふざけてるけど、柄にもなく緊張していたりする?それとも……あ。



ふと思い出す。あの頃も、度々似たようなことがあったことを。





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