シルビア
時計の短い針が12の数字を過ぎ、お昼休憩を迎えたある日のフロア。
今日は仕事が少したまってしまっているから、と私は、皆が昼食を食べに出払っている寒い室内でひとりコンビニで買ってきたサンドイッチを食べていた。
「うー……さむい」
11月も終わり頃となり、寒さは一層増すこの頃。暖房器具のひとつもないこのフロアは、この時期ですでに寒い。
これから12月、1月とどうなることやら……。
膝にかけたブランケットで足元をあたためながら、たまごのサンドイッチをまた一口食べる。
「凛花さーん、この書類……ってあ、ごはん中でしたか、すみません」
「ん、いいよ。書類預かるね」
するとフロアに入りながら声をかけてきたのは、書類を数枚手にした黒木ちゃん。
休憩を後回しにしてこの時間まで働いていたのだろう。手についたパンのかすを払うと、その書類を受け取った。
「黒木ちゃん、お昼は?」
「区切りのいいところまでやったら行こうと思ってたら、こんな時間になっちゃって」
「あはは、あるある」
笑って頷く私に、最初はあははと笑ったその顔が、思い出したようにニヤリと笑う。
「ところで凛花さん、聞きましたよー?」
「へ?なにを?」
「この前外回り行ったとき、宇井さんと寄り添ってたらしいじゃないですか」
「え!!?」
な、なんでいきなり!?
まさかそんな話を黒木ちゃんからされるとは思わず、驚き動揺してしまう。
「凛花さん、宇井さんのこと嫌ってるようなイメージあったんですけど……そっかぁ、あれはラブの裏返しだったんですねぇ」
「な!?ちっ違うから!あれは向こうが具合が悪いっていうから……」
「もー、照れなくていいんですよー?」
「だーかーらーっ!」
必死に否定するものの、その必死さが余計におかしいのだろう。黒木ちゃんはますます目を細めて笑う。
まさか噂になっているなんて……!
思えばあの辺にネクサスの直営店があった気がする。そこで誰かに見られた?偶然、にしても間が悪すぎる。
アクセサリー事業部のほうまで噂がきているということは、社内にはほとんど話が回ってしまっているだろう。
……面倒なことになりそう。思わず深いため息がこぼれた。