シルビア
「誰だろうね、わざわざここまで来るなんて」
「はい、考えても全然思い当たらなくて……」
乗り込んだエレベーターは、ポン、と音を立て私たちを1階へと運んだ。
そしてフロントへと歩いていくと、そこには一人の女性の姿がある。
色白で痩せた、真っ黒な長い髪の女性。ベージュ色のコートを着た彼女は、ロングブーツに革のハンドバッグを手にして立っていた。
「あ、あの人かな」
「えっ……、あ!」
けれど、その女性を見た途端黒木ちゃんはビクッと震え、怯えたように私のシャツの裾を握る。
「黒木ちゃん……?」
ただならぬ反応に『どうしたの?』そう声をかけようとしたタイミングで、女性はこちらを見た途端、強張らせた顔で笑った。
「いた……見つけた……」
その表情ひとつで、彼女が平常心ではないことはすぐにわかった。
なんか、まずい。あの人怖い。
そんなこちらの警戒心を態度に出そうとするより早く、女性はカツカツカツとこちらへ詰め寄った。
その目はまっすぐに、黒木ちゃんだけを見据えて。
「あんた……ふざけるんじゃないわよ!人の彼氏寝取って、結婚ですって!?」
「ね、寝取ってなんてないです!あなたとは何年も前に終わったって……」
「終わってないわよ!!私はまだあの人のことが好きでっ……彼も好きに決まってる!!あんたが邪魔なのよ!!」
興奮した様子で大声をあげ黒木ちゃんに掴みかかろうとする女性。それに対し私は咄嗟に、黒木ちゃんを庇うように前へと立った。