シルビア
「黒木ちゃん……?」
「っ……ごめん、なさい……私のせいで、凛花さんたち巻き込んで、宇井さんにもケガさせてっ……」
「黒木さん……」
ポロポロとこぼれる涙を両手で拭い、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す黒木ちゃんに、私はその頭をそっとなでる。
「私はいいの。望……じゃなくて、宇井さんも、ほら、前に『美人に叩かれるならご褒美』って言ってたくらいだし」
「でも……」
「だからいいんだよ、気にしなくて。いきなり怖かったよね、よしよし」
いきなりああして勢いよく怒鳴りつけられれば、怖かっただろう。
だけどそれよりも私たちのことを気にして泣いてくれたことに、嬉しさを感じるとともに、彼女なりの気遣いを感じる。
だけどね、それより先に自分のために泣いていいんだよ。弱くなってもいいんだよ。
そんな気持ちを、手のひらにこめて。
「でもあの人誰?黒木さんのこと知ってる人っぽかったけど」
それまで見守るようにしていた望は、タオルで目元を押さえながら問いかける。
その問いに涙で濡れた黒木ちゃんの表情は不安げにくもりだした。
「……彼の、元カノらしくて。何年も前に別れたらしいんですけど、私と彼が結婚するって聞いた途端に『私が彼と結婚するはずだったのに』ってしつこく電話がきたりするようになって」
「うわぁ……それは怖いねぇ」
「でもまさか、会社にまで来るなんて」
恐らくは、元彼の結婚話が気に入らなかったのだろう。
破談させるためかいまだ気持ちがあるのかはわからないけれど、とにかく二人の仲を壊そうとしていたのだろうことは、先程の女性の様子から感じ取れた。
ドラマや噂話で聞いたことはあったものの、身近なところでそんな話があるだなんて。