シルビア
「あの日……記念日、なにしてたの?」
浮気していた?忘れていた?
「あの指輪は、誰へのもの?」
一緒にいたという女性へのもの?それとも、
「どうして、黙っていなくなったの……?」
どうして、『さよなら』の一言もくれなかったの?
どうして、なんで、知りたいことが沢山あるよ。だから教えて。ひとつひとつ、その心の中身を。
けれど、そんな気持ちとは逆に、ふと逸らされる目。
「それは言えない。……凛花には、一生言わない」
言えない?言わない?
私には、?
「なにそれ……納得出来ない」
なによ、それ。意味が分からない。
人が出した勇気を、そんなふうに流さないでよ。拒まないでよ。
当然納得など出来ずにいる私に、望はそれ以上の会話を拒むようにその場を歩き出す。
「ちょっと望、待って……」
呼ぶ名前に足を止めることなく、細い背中を向けて。
遠くなる背中は、それ以上の追求を許さずに、止まることも振り返ることもなく去っていった。
言えないって……どういうことよ。
その言葉にどれほどの意味があるかは分からない。けど、ずしりとのし掛かる。
重い、重い言葉。
ずるいよ。
散々自分から触れておいて、優しくして、ただの他人にしては近い距離にいて。なのに、こちらが歩み寄ろうとすると逃げるなんて。
ずるい。本当に、ずるい。
「……なに、それ」
この心に、悲しみばかりを植え付ける。
彼は、いつだって。