シルビア




「あの日……記念日、なにしてたの?」



浮気していた?忘れていた?



「あの指輪は、誰へのもの?」



一緒にいたという女性へのもの?それとも、



「どうして、黙っていなくなったの……?」



どうして、『さよなら』の一言もくれなかったの?



どうして、なんで、知りたいことが沢山あるよ。だから教えて。ひとつひとつ、その心の中身を。

けれど、そんな気持ちとは逆に、ふと逸らされる目。



「それは言えない。……凛花には、一生言わない」



言えない?言わない?

私には、?



「なにそれ……納得出来ない」



なによ、それ。意味が分からない。

人が出した勇気を、そんなふうに流さないでよ。拒まないでよ。



当然納得など出来ずにいる私に、望はそれ以上の会話を拒むようにその場を歩き出す。



「ちょっと望、待って……」



呼ぶ名前に足を止めることなく、細い背中を向けて。

遠くなる背中は、それ以上の追求を許さずに、止まることも振り返ることもなく去っていった。



言えないって……どういうことよ。

その言葉にどれほどの意味があるかは分からない。けど、ずしりとのし掛かる。



重い、重い言葉。



ずるいよ。

散々自分から触れておいて、優しくして、ただの他人にしては近い距離にいて。なのに、こちらが歩み寄ろうとすると逃げるなんて。



ずるい。本当に、ずるい。



「……なに、それ」





この心に、悲しみばかりを植え付ける。

彼は、いつだって。






< 126 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop