シルビア
◇「離さない」
勇気を出すときだ、と踏み出したのに、瞬間それを後悔するなんて。
『言えない』、そんなはっきりと言われるとは、思わなかった。
聞くべきじゃ、なかったのかな。
落ち込む心に、こうしてまた涙を堪える日々。
『泣くな、泣くな』
ほらまた、呪文のように繰り返すんだ。
「うーん、もうちょっとパーツ部分分かるように映せない?」
「はーい、じゃあズームして……」
週末金曜の、時刻はもうすぐ昼12時を迎えようとしている頃。
いつものアクセサリー事業部のフロア……の隣にある小さな会議室では、ピピッ、とデジカメのシャッター音が響いていた。
白い布を敷いたテーブルの上には、いくつものリングやネックレス。それを綺麗に置き、ひとつひとつ写真を撮っていく。
今日の仕事は、商品撮影。
今度の展示会で配布するフライヤーや、新商品のカタログに使うための写真撮影は、いつもこうして自分たちで行っている。
「……うん、これならなかなか」
窓からの光がほどよく照らし、照明を少し足すだけで商品を綺麗に見せる。
見慣れた商品でも、こうしてインテリアとともに飾ると雰囲気が出て別物のように見えるのだから、不思議だ。
「でもこの会議室、営業部の人たちがよく貸してくれましたよね」
「あー……うん、2日前から頼み込んでようやくね」
ぼやくように言う黒木ちゃんに私はデジカメに映る写真を見ながら苦笑いをこぼす。