シルビア
「はい。この前も庇ってくれた時にケガしちゃったじゃないですか。私それがすごく気がかりで……菓子折り持ってお詫びしたんですけど『可愛い子のためなら名誉の負傷だよ~』なんて笑ってくれて」
「あはは、あの人らしい」
「ですよね。そうやって明るく振る舞ってくれるところ、いい人だなって」
それは私も知っている、望の優しさ。
思い出すように微笑む彼女の表情は先日とは違う、明るく可愛らしい笑顔だ。
あの騒動の翌日、聞けば彼との間の誤解もとけたらしく、やはりあのことは、女性ひとりの思い込みだったそう。
『このままなら弁護士を入れて訴える』といった姿勢にでたところ、ようやく女性は身を引いたと聞いて一安心だ。
……一方で私と望との関係は、相変わらず。
『凛花には言えない』
あの言葉に、これまでわずかにひらいていたように見えていた私と望の間が、よりはっきりとひらいた気がした。
それは、居場所もなにも分からず離れていたころよりも遠く、思うたびに心を締め付ける。
だけど当の望は、やっぱり相変わらずで。普通に話しかけてきて、普通に笑う。
『どうしたの?困りごと?』
この会議室の一件だって、そうやってなんてことない顔で力になってくれたんだ。
……むかつく、くらいに。