シルビア
「……なによ」
「ダメ?」
「ダメ。離して」
「ダメー。離さない」
聞いておきながら、離すつもりなんてないのだろう。おかしそうに言いながら、望は手をつないだまま歩いていく。
けど、『ダメ』と言っておきながら、振り払うつもりなどない。そのまま、手をつないだまま。
人の多い駅の中、手をつないで歩く。そんな私たちは、道行く人にどう見えるのだろう。
きっと他人には見えていなくて、元恋人同士だなんて微妙な距離だとも思わないだろう。
事実とことなる形に見えていたとしても、それでいい。
誰かの目の中だけでも、あの頃と同じ関係になれるのなら、それでいい。
……離したく、ない。
もっと痛いくらい強く握って、離さないでいて。ずっと、ずっとつないでいて。
離さないで、抱きしめて、帰りたくない、
伝えたい言葉と望むものはたくさんあるのに、なにひとつ言えないまま。
ただ夜空の星にだけ聞こえるように、心の中でしか言えずにいる。