シルビア
「……三好さん」
12月になったある日の午後。
仕事中に不意に呼ばれた名前に振り向くと、そこには書類を数枚手にした柳下さんの姿があった。
彼女からたずねてくるなんて……珍しい。いつもなら、用があっても望伝いだったり電話で私を呼んだりしていたのに。
思わず驚きを隠せない私に、彼女は長いまつげをバサバサとさせこちらを見る。
「あれ……柳下さん。お疲れ様です」
「これ、上から回ってきた通達。確認しておいて」
「はーい、ありがとうございます」
フロア入り口に向かい書類を受け取ると、早速書面に目を通す。すると、こちらへじっと向けられるその視線。
「ん?どうかしました?」
「……この前のこと」
「え?」
「この前の織田さんのこと……武田さんからきちんと事情聞いたわ。……織田さんだけを信じて、ごめんなさい」
気の強そうな顔立ちから、ボソボソとつぶやかれる一言。それは、予想だにしなかった言葉。
「柳下さん……」
「で、でもだからってアクセサリー事業部のことを認めたわけじゃないんだから!ただ私だって自分の間違いを詫びることくらいは人として……」
聞いてもいないのに言い訳をして照れを隠すところが、なんだか少し可愛らしくて、これまでの“きつい人”というイメージが一気に変わっていく。
それがちょっとおかしくてつい「ふふ」と笑ってしまった。
「じゃ、じゃあ!用はそれだけだから!」
「はーい、わざわざお疲れ様です」
柳下さんは恥ずかしそうに頬を赤く染めると体の向きを変え、長い脚でその場を歩き出した。