シルビア
……これは、なかなかいい傾向かもしれない。
あの織田さんとの一件以来、営業部の女性陣の雰囲気が少し変わったような気はしていたけれど、今の柳下さんの態度でそれは確信へと変わった。
織田さんのいうことだけを信じていたのだろう彼女たち。
けれど後日、社内に広まったその話や望や武田さんのフォローもあり、誤解が解けると同時に確執もなんとかなりつつある。
……まぁ、話が広まった結果織田さんは上司から厳しく叱られ、忙しい総務部へと強制異動させられていってしまったけれど……。
けど、人間関係はどうにかなりそうだし、仕事もなんとか順調だし、よかったよかった。
展示会も目の前だもん、頑張らなくちゃ。
よし、と気合いを入れて席に戻ろうとすると、続いてドアから顔をのぞかせた葛西さんは私を見つけすぐに声をかけた。
「あ、凛花さん、ちょっといいですか?」
「ん?なに?」
廊下へ出ると、そこには葛西さんと、あまり見かけない顔の中年の男性社員が一名。
首から下げた社員証には『商品部 枠島』の文字。……ってことは、ネクサスの商品部の人。何の用だろう。
首を傾げ見れば、彼……枠島さんは、口元にシワをつくり「お疲れ様です」と小さく笑う。
「ネクサスのほうから新作のカタログ撮影にアクセサリーを数点借りたいそうで」
「えぇ、構わないけど……どの商品?」
「ブライダル関係のカタログなので、リングやパール系のピアス・ネックレスなど借りられるとありがたいんですが」
穏やかな口調の彼に、つい気になり問いかける。