シルビア
「私達は、あなたたちみたいなショボい会社を仲間だなんて認めてないから。せいぜいこのくらーいオフィスで、縮こまって働くことね」
そしてそう吐き捨てるように言うと、彼女は役目を終えたと言わんばかりに、颯爽とその場を後にした。
み、認めてないって言われても……。
歓迎、というほどではないけれど、もう少し好意的に受け入れてもらえるとばかり思っていただけに、その態度は少し衝撃的で、呆然とその後ろ姿を見送るしか出来ない。
「こ……怖かったですねぇ、あの人」
「本当……この会社の女性って皆こんな感じなの?」
「皆、かどうかは分かりませんけど。でも自分たちのほうが上って思ってるとは思いますよ」
苦い顔をする葛西さんに「だよねぇ」と頷くと、手にしていた黒いトートバッグを長テーブルに置いた。
あんな態度をされて、私や葛西さんは我慢出来ても若い子たちは出来るかな……。なるべくなら揉め事なく、穏便に仕事したいんだけど。
これから先の苦労が目に見えてしまい、深い溜息が出る。
「あっ、すみません!武田ですけれども!」
「ん?あ、どうもお疲れ様です」
すると、開いたままだった背後のドアからバタバタと姿を見せたのは、ひとりの男性。
武田と名乗る茶色い癖っ毛をしたその彼は、見た目から見て私と同じくらいかやや上かといったくらいの年齢だろう。
左目元の泣きぼくろと少したれた目が印象的で、白いシャツに黒いセーターを着た爽やかな姿でこちらに微笑んだ。
武田、って確か……担当の人だよね。
「遅くなってすみません。他の用件でちょっと立て込んでまして」
「いいえ、お忙しい中すみません」
申し訳なさそうにぺこ、と小さく頭を下げると彼は首に下げられた社員証を見せ挨拶をした。