シルビア
「もう、凛花さん最近変ですよ」
「そ、そう?」
「そうですよ!昨日も取引先からの電話出たかと思えばボーッとしたまま無言だったし、今朝はなにもないところで転んでたし……どうかしたんですか?」
あきれたようにデスクを拭くのを手伝う黒木ちゃんの言葉に、ぎく、と音をたてる心臓。
望の態度にあれこれ考え翻弄されている私は、そういうところが思った以上に顔や態度に出ているのかもしれない。
まずい。このままでは、いつか笑えないようなミスをしかねない。
気をつけなければ、と肝に銘じつつ、デスクから避けた書類を見れば端が濡れてしまっている。
「でも最近宇井さんもなんか変ですよね。ちょっと元気ないっていうか……やっぱりあの噂って本当ですかねぇ」
「噂?」
「あれ、聞いてないですか?宇井さん、ネクサスの九州支社に転勤になるらしいですよ」
「えっ……えぇ!!?」
て、転勤!?九州!?
なにそれ、聞いてない!!
初めて耳にするその話に思わず大きな声をあげる私に、黒木ちゃんは「知らなかったんですか」と少し驚いた顔をしてみせた。
「アクセサリー事業部の九州地方の営業担当になるらしいですよ。ようやく業務内容に慣れたところなのに、上もひどい辞令出しますよねぇ」
知らなかった。なにそれ、転勤って。
なんでなにひとつ言ってくれなくて、他の人の口からこうして聞くことになるの。
……あぁ、だからあのキス?
元カノと最後にいい思い出作り?
だから、『ごめん』?
「……なんか腹立ってきた」
「へ?凛花さん?」
私は手にしていた書類をバン!とデスクに叩きつけ、勢いそのままに営業部のフロアへと向かう。