シルビア
なんて勝手な奴。そうやって私を翻弄して、その予想通りに転がされている自分にもまた腹が立つ。
もう遠慮したり、気まずいとか、聞いちゃいけないとか、あれこれ考えるのはやめた。
思い切りぶつかって砕けてやる。
「失礼します!宇井さんいますか!?」
ノックもせずにドアを開け、開口一番に大声を出した私に、営業部フロア内の視線は一気にこちらへと向けられる。
すると、その中にいた武田さんはいつも通りの笑顔でこちらへと寄ってきた。
「あれ、三好さん。宇井ならたった今営業出たところだよ」
「今!?タイミング悪い……」
「なにか用事?夜には一回戻ってくるだろうから、伝えておこうか?」
望の転勤の件って……、そう彼に一度問いかけようとしたものの、それを飲み込む。
「大丈夫です、自分で直接伝えます。失礼しました」
そして深く頭を下げると、またカツカツと廊下を歩いた。
転勤のことも、自分のいいたいことも、直接言って直接聞かなきゃ。私の気持ちがおさまらない。
……戻るのは夜、か。
それまでに、言いたいことを頭の中できちんと整理しておこう。まぁ、実際その時がきたらあまりあてにならないかもしれないけれど。
「あ、凛花さーん!展示会で使う小物届きましたよ。チェックしてください」
「はいはーい!」
一度エンジンのかかった心は、早く動き出したくてうずうずとする。
早く、早く。
伝えたい、気持ちを。知りたい、本音を。
あのキスは本当に、ただのいい思い出作りなのか。知ることはこわいけれど。