シルビア
「りっ凛花さん!?いきなり何してるんですか!!」
「はっ!!」
葛西さんの声に我に返ると、目の前には当然驚く葛西さんと武田さんの顔。それと、みるみるうちに赤くなっていく望の頬。
ま、まずい……やらかしたー!!
初対面のはずの私が望を叩くなんて、『なにか訳ありです』って自分で言っているようなものじゃんか……!
どうしよう、言い訳、フォロー……あーもう!いきなり何してるの私!!
「あの、えーと、その……か、蚊がいたんです!!」
「は?蚊?」
「そ、そう!それで、刺されたら大変だと思って!つい!いつもの勢いで!!」
この季節に蚊って、我ながら言い訳が苦しすぎる……!
当然納得出来ないといった表情の葛西さん。けれど一方で望は、またへらっと笑顔を見せる。
「あぁ、蚊!それはそれは親切に……」
ところが笑顔とは裏腹に、その口元からはタラーッと一筋垂れた血。
恐らく衝撃で口内を切ってしまったのだろう。同僚の身に起きた突然のことと、後輩のしでかしたことに武田さんと葛西さんはサーッと顔色を青くした。
「う、宇井!血!血ー!!」
「へ?あ、ホントだ」
「うちの三好がすみません!とにかく手当を!!」
瞬く間に大騒ぎとなるその場。ひとりどんな顔をしていいか分からない私は、じんじんと痛む自分の手を見つめる。
……夢じゃ、ない。
確かに彼に触れた、その感触だけを手のひらに握りしめて。