シルビア
それから、彼女が来るたびついつい向く視線。
彼女の名前も、普段なにをしているかも知らない。だけど本の好みだけは完璧に覚えた。
店に入るとまず女性向けのファッション誌を立ち読みしていったり手にとる。
10代向けからミセス向けまで一通り立ち読みしていくことから、おそらくそういった業種の仕事をしているのだろう。
そこから奥の文庫コーナーへ向かって、選ぶのは時代小説。
江戸や明治などの時代を舞台にしたストーリーのものを、一冊一冊じっくり読んで選んでいる。
若い女の子にしてはなかなか渋い好みだなぁ、なんて思いながら、こういうのは好きだろうか、とか勧めてみたら読んでくれるだろうかとか、気付けばよく彼女のことを考えるようになっていた。
彼女を見つめて、彼女のことを考えて、でもどう声をかけたらいいだろうかと悩んでいた。
そんなある日のこと。
『おい宇井、あれ見ろよ』
『え?……あ』
仕事中ニヤリといやらしい笑みを浮かべる先輩が示す先には、今日も来ていた彼女の姿。
上のほうの本を必死に背伸びして取ろうとしているものの届かないようで、その最中短いスカートが上にあがり、下着が見えそうになってしまっている。
お、ラッキー……じゃなくて!ダメだろ!
一瞬芽生えた下心を振り払い、慌てて彼女のもとへと駆け寄った。