シルビア
「っ……何やってるんですかあんたは!!」
その後、とりあえずと薄暗いフロアに残された私と葛西さん。
『手当をしてくる』と部屋を出た武田さんと望に、ふたりきりになった途端葛西さんは幼い顔を鬼のようにして怒鳴る。
「これから長く一緒に働いていく相手なんですよ!?それを出会い頭に叩くなんて……百歩譲って本当に蚊がいたとして、あんな風に叩かれるなら蚊に食われたほうがマシですから!!」
「す……すみません」
葛西さんの言い分はもっともだ。けど私からすれば、拳で殴らなかっただけまだ優しさがあったと思う。
まぁ、いきなり手をあげたのは確かに悪かったかもしれないけど……。
でも、びっくりしたんだもの。だってまさか望と、こんな場所で再会するなんて。
なんでここに、どうして、今までどうして、なにを考えても疑問しか出てこない。
それに……『初めまして』、って。どういう意味?
付き合っていたこと、恋人だったことはなかったことにするということ?
驚くことも動揺することもなく、平然と、全てなかったことに。
「聞いてるんですか凛花さんんん!!」
「は、はいはいはい!聞いてるから!ごめんって!!!」
彼からのお説教はまだ続いていたらしい。話を聞いていないことを察した様子の葛西さんは、資料を丸めメガホンのようにして私の耳に大声を浴びせる。
「すみません、お待たせしました……ってあれ、お取込み中でした?」
「いえ全く!」
そこにちょうど戻ってきた武田さんと望に、葛西さんは丸めた資料を隠すとにこっと爽やかな笑顔を見せた。
けど彼がいくら笑顔を見せても、横の私の不機嫌な顔とやかましそうに耳を塞いでいる態度から、説教をされていたことはふたりにも簡単に分かるだろう。