シルビア





『悪化、してますね』



久しぶりに来た病院で、あの日と同じメガネをかけた医者は、低い声でつぶやいた。



『悪、化……?』

『えぇ。以前もお話ししたかと思いますが、この病気はほとんどが自然治癒で終わるものなのですがね。当然なかには進行して失明したり入院生活になる場合も……最悪、死にいたる場合もあります』

『じゃあ、俺は……』

『……現状、軽くはないですね』



もう、すっかり忘れた気でいた。だって、今までそんな、大したことなかったじゃないか。

それがいきなり悪くなって、こんな、最悪死ぬだなんて言われて、受け入れられるわけがない。



『とりあえず、投薬と定期的な診察から始めましょう。そこからまた経過を見ながら、症状によっては処置を加えなければならないかもしれないですが』

『……はい……』

『あと、ご家族にもきちんと話しておいてくださいね。この先おそらくご家族の支えなしでは乗り切れないことが沢山あるかと思いますから』




“家族”に、説明する?

この先いずれ家族になるだろう、凛花にも。

病気なんだ、って。悪くなるかもしれなくて、目が見えなくなるかもしれない、苦労をかけるかもしれないって?



……言えない、だろ。



嫌われるかもしれない。一緒にいられない、支えられないと拒まれるかもしれない。

それよりなにより、この先苦労をかけると分かりきっていて、『一緒になろう』なんて、言えない。




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