シルビア
別れ、よう。
理由は言わずに、なにか適当な嘘でいい。彼女にとって、過去の人間になろう。
そうすればきっと、凛花は俺を忘れて次に進める。どこかの誰かと、幸せになれる。
それがきっと、凛花にとって一番の道。
だけど、あと少し。あと少しだけ、一緒にいさせて。その笑顔を目の奥に焼き付けて。
一生、消えてしまわないように。
そう、ずるずると期間を先延ばしにして、別れなきゃ、でもあと少し、を心の中で繰り返していた。
『もう、望ってば聞いてるの?』
『え?あー……ごめん、聞いてなかった』
その間にも、症状は段々と悪化して、それでも凛花には必死に隠し通した。
風邪という言い訳も、これ以上は通じないかもしれない。だけど、もう少しだけ。
そんな日々を過ごし、その日はやってきた。
それは凛花と付き合って、4年目の記念日の日。
凛花が自宅で料理を用意してくれるから、俺は仕事が終わったらそのまま凛花の家に行く約束をしていた。
『宇井さーん、ちょっとこっちで本の整理お願いします』
『はいはー……、』
いつも通りの仕事中、歩き出した瞬間に突然ぐらりと揺れた視界。
その感覚に体が耐え切れず、俺はそのままその場に倒れた。