シルビア
『宇井さん!?』
顔をぶつけた床の冷たさと、悲鳴まじりの周りの声だけを感じながら、視界は段々と暗くなっていった。
そこで俺はようやく、気付く。
あぁもう、限界なのだと。
隠せない。普通には、生活できない。凛花にも話さなきゃいけない。けど、それも出来ない。
好きなのに、いつかこの目はその笑顔を見ることができなくなる。
好きなのに、いつか俺は重荷になる。
好きなのに、こんなにも好きなのに。
思い知った現実に、絶望した。
目を覚ますと、そこは書店のスタッフルーム。
並べたパイプ椅子に寝かせてくれたらしく、ゆっくりと体を起こすと先輩や他のスタッフは、店の閉店準備を終え帰り支度をしていたところだった。
『おー、起きたか?今家まで送ろうと思ってたところなんだよ』
『すみません……ご迷惑、かけました』
『いいよいいよ、体は?大丈夫か?』
『はい……あっ!!』
はっと時間を思い出せば、手元の時計がさす時刻は22時すぎ。
予想以上に眠っていたらしい。まずい、凛花との約束が。そう慌てて身支度をしようとしたものの、体はついていかず、くら、とまためまいがした。
『無理すんなよ。少し休んでいけって』
『……いえ、行きます。すみません、お先に失礼します』
だけど、行かないと。
息を整えながら、やっとの思いで凛花の家についた頃には23時を過ぎていた。
テーブルには並んだ料理。ソファにひとり座る凛花の顔は無表情で、怒りだけじゃない。不信感も、感じ取れた。