シルビア
『ごめん!急な仕事頼まれて、断れなくて……』
『……嘘つかないで。さっき書店行ったけど、居なかった』
『それは……、』
笑ったり流したりすれば、その不信感は余計に増すだろう。だけど、正直には言えない。
『……浮気してるんでしょ』
『えっ!?そうじゃなくて……』
ここ最近の俺の態度から、疑われていたのだろう。
違う、違うよ。浮気とか、他の人に興味なんてない。ついそう否定しかけた言葉を、凛花の声は遮る。
『違くないじゃん!私のことなんてどうでもいいんでしょ!?もういい、別れる!最低っ……』
『……凛花、』
どうでもよくなんてないよ。凛花のことしか考えてない。
心の中ではそう叫ぶのに、言葉には出来ない。
言葉を選ぶうちに、凛花の目からはポロポロとこぼれた涙。
いつもは強がってあまり涙を見せることのない彼女の瞳からこぼれる涙に、彼女をどれほど傷付けたのか気付いた。
これから何度も、こういう日がくるのだろうか。
何度も泣かせて、傷つけるのだろうか。
そう思うとやっぱり俺は、そばにいるべきじゃないんだろう。
『ごめん、凛花……ごめんね』
泣く凛花を抱き締めて、決めた。
別れを、告げよう。
『ごめん、別れよう』と、『他に好きな人がいるんだ』と、嘘で塗り固めた言葉を。
だけど、何度も、何度も言おうとするのに、声が出ない。
だって、そんなこと本当は言いたくない。微塵も思ってない。
迷惑でも、苦労をかけても、そばにいてほしい。一緒にいたい。
だけど、きっとそれは俺のわがままで。凛花が毎日笑顔でいられる道は、他にたくさんあるはずなんだ。