シルビア
第1章
◇『ごめん』
季節は、暑さがようやくおさまり秋への移り変わりを感じる9月の末。
東京は立川にある小さなビルの、『(株)Lamia』と書かれた看板を掲げたフロア。
そこにはせかせかと動く社員たちの姿があり、室内にはいたるところに段ボールが積み上げられている。
「凛花さーん、この箱にはなに入れますー?」
「そこの段ボールには過去5年以内の伝票!ひと箱じゃ絶対入りきらないから、何箱かに分けて……あ、段ボールの外側に番号書いてね!」
「カタログデータ集はどうします?」
「それは向こうの商品情報関係の箱に入れて!あー!黒木ちゃんその箱まだ閉めないでー!」
その中で、一際目立つ大きな声。
ハキハキとした気の強そうな声は、柔らかく可愛らしい女の子たちの間では尚更目立つ。
テキパキと指示を出しながらあれこれと騒ぐ私に、皆はくすくすと笑って「はーい」と返事をした。
『株式会社Lamia』。
それは指輪やピアス、ネックレスなどのアクセサリー全般を製造・販売するアクセサリーメーカー。
我が社が扱うのは、20代から40代をターゲットに『シンプルだけどかわいい』をモットーにした、自社オリジナルデザインのアクセサリー。
それらは全国の雑貨店やアパレルショップにて販売され、社員数の少ない小さな会社ながらも、まぁそこそこ良い評価を得ている。
そこの商品営業部……つまりは、商品デザインも取引先への営業もおこなう部署で中心となって働くのは私・三好凛花、29歳だ。
白や淡いピンク・水色など、取り扱っているアクセサリーの雰囲気そのままに、柔らかな色合いの服装をした、平均年齢25歳の可愛らしい女の子の社員たち。
その中で黒いカットソーに黒のパンツ、ベージュ色のジャケット、と動きやすさ重視の服装に、茶色い長い髪をヘアクリップでまとめただけの私の格好はとてもかわいげがない。