シルビア



「……幸せそうでよかった」

「幸せですよ〜。そりゃあ新婚ですから」

「ま、幸せなのは今だけだけど。結婚は人生の墓場って言うくらいだし」



幸せに水を差すように意地悪く言われ「うっ!」と苦い顔をしてみせる。そんな俺に武田さんは、拳で軽く俺の頭を小突いた。



「でも、それでもいいんだよ」

「え?」

「家族になるからこそ得られるものがある。家族じゃなきゃ出来ないことも、この先たくさん出てくる」



家族になるからこそ、出来ること。

それはきっと、他人や友達、恋人では限界のあること。



「逃げるなよ。支えあうのが、家族だ」



その度に、現実に逃げたくなっても向き合うんだ。

重みもまた、家族の証だから。



「……はい、」



しっかりと頷いた俺に、武田さんは「じゃあ」と部屋を後にする。



「……凛花ー。武田さんに、俺の体のこと言ったでしょ」

「うっ!」



俺と武田さんの話が丸聞こえだったであろう、白いカーテンの向こうにいる凛花に声をかけると、凛花の気まずそうな声が聞こえる。



「ご、ごめん……でも武田さんはいざという時絶対頼りになると思うし、言っておいた方がいいと思って」

「まぁ、武田さんは言ったからって気を遣うような人でも言いふらすような人でもないからいいけどさ」



葛西さんのような人にだったら絶対言わないけど。なんて心の中でつぶやいて笑う。



「でも、武田さん言ってたよ」

「なんて?」

「『宇井はきっと大丈夫だから、いつでも信じてあげること』って」



信じて、あげること。

……武田さんらしい言葉、だなぁ。



はは、と笑うと、カーテンの向こうの彼女も笑っているのが見えた気がした。




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