シルビア
あぁ、ムカつく。本当にムカつく。
これまでの寂しさとか悲しさとか、驚きだとかそんなものが全部吹っ飛んでしまうくらい、ムカつく。
よりによってこのバカな男と、これから一緒に仕事をしなきゃいけないなんて……ありえない。
ていうか、なんでこいつは普通でいられるわけ?それほど私のことなんてどうでもいいわけ?
……分かってたけど、さ。
勝手に出ていって、いなくなって、その時点で彼の中では全て終わってしまっていたのだと実感すると、この胸は一層ぎゅっと締め付けられる。
「どうぞ、コーヒーです」
気を取り直し、仕事に関しての話をするべくやってきたのは先程のフロアの1階上、13階の打ち合わせブース。
4人掛けの席に4人ぴったりと座り、愛想のいい事務員の女性が運んできてくれた熱いコーヒーに口をつけた。
「……あの人は愛想いいんですね」
「こら、凛花さん!しっ!」
ワンピースの美女とにこやかな事務員さんを比べついこぼしてしまった本音に、向かいに座る武田さんたちは苦笑いをみせる。
「あぁ、会いました?すみません、営業部の女性陣はちょっと性格がきついというかプライドが高くて……」
「あー……でしょうねぇ。認めない、って言われました」
「『小さなアクセサリー会社と合併する』って聞いた途端に『会社の名前に傷がつく』、とかあれこれ騒いで上司に叱られたものだから、まぁ八つ当たりですよ」
武田さんの穏やかな説明に、そういうことかと合点がいく。
だから弱小企業、ねぇ……。
これが自分たちと同等か自分たちよりすごい会社ならまた態度も違うんだろう。
けど社員数も少ない、経営もいっぱいいっぱいなうちの会社相手では『会社の名前に傷がつく』、か。
納得し、隣に座る葛西さんと苦笑いをこぼす。