シルビア



「あ、ならうちの会社も独身多いのでぜひ。紹介しましょうか?」

「いや、私は結構です。彼氏とか結婚とか興味ないので」

「え?そうなんですか?」



先ほど営業部を見た感じだと、確かに男性も多いし年齢も若そう。

よかれと思って言ってくれたのだろうけれど、それをばっさりと断った。



「美人なのにもったいないですよー!諦めないで!頑張りましょ!」

「そこうるさい」



そこに煽るように応援する望。こちらの気持ちも知らないでへらへらとしたその態度に、またジロリと睨んでしまう。



諦めないでって……どの口が言うんだか!!

あんたのせいだから!あんたが勝手にいなくなったりするから、こっちはそれ以来まともな恋愛も出来ずにいるから!!



……せめて、きちんと別れ話をして終わっていたら。今も変わっていたかもしれないのに。

そう思うと余計腹立たしく、まだ中身がなみなみとある紙コップをカンッとテーブルに力強く置いた。



「ちなみにお二人は結婚されてるんですか?」



続いて葛西さんから振られた話題に、ちょうど紙コップを手にした武田さんの左手薬指には、シルバーの指輪が光っているのが見えた。



「俺は結婚してます。3歳の娘がいるんですけど、春に2人目が生まれる予定で」



嬉しそうに笑う表情から、幸せいっぱいなのが伝わってくる。

武田さんは既婚、か。まぁ、これだけ穏やかで包容力のありそうな男性なら、結婚していてもおかしくないと納得さえ出来てしまう。

続いて葛西さんが目を留めたのは、望の左手。



「宇井さんは指輪してないですし、独身ですか?」

「はい。俺は“皆の宇井さん”ですから。結婚して女の子たちが悲しむといけないんで」

「宇井、見た目はいいんですけど中身がコレですからね〜。女の子もまともに相手するの疲れるんでしょうね」



要するに、彼女すらもなかなか出来ないのだろう。武田さんは呆れたように言った。



そっか、彼女はいないしまだ結婚もしていないんだ……。

ってなにちょっと安心しているんだか!関係ないから!興味もないし!
言い訳をするように心の中で叫ぶと、ちら、と目の前の姿を見る。



こちらの視線に気付くことなく葛西さんたちと話している姿は、あの頃と大して変わらない。

少し伸びた黒い髪、相変わらずの左分け。ボタンの開いたシャツからのぞく首元は、骨っぽく、痩せた鎖骨が浮き出ている。



……本当に、望だ。

なんで、どうして、なにひとつ分からないけれど、確かに彼が目の前にいる。

ずっと会いたかったはずなのに。なのにこうして向かい合っても、素直に喜ぶことなんて出来ない。



むしろ、問いかけられない気持ちばかりが、もやもやと募っていくばかりだ。




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