シルビア
◇「また明日」
だって、夢にも思わなかったの。
あの日いなくなった彼が、突然現れるなんて。
二度と会えることはないと思っていた。
離れた私たちは、そのまま他人として終わると思っていたから。
……なのにまさか、同じ会社で働くことになるなんて。
朝を迎えたひとり暮らしのマンションの一室で、見つめたのは青いケースに入った指輪。
あの日置き去りにされていたその指輪は、指にはめることはもちろんケースから取り出したことすらもない。
キズひとつなく、小さなダイヤが朝陽に照らされ輝いている。
こんなもの、さっさと捨ててしまえばいいと分かっているのに。
捨てられずに、こうしてまた見つめているだけ。
心をしまい込むように、パタン、と静かにケースを閉じると、窓際に置いて家を出た。