シルビア
「そういえば、昨日の結婚式どうだったんですか?友達の式だって言ってましたよね」
せっせと段ボールに書類を詰めていく私に、思い出したように問うのは5つ年下の後輩・黒木ちゃん。
小さな顔に黒いボブヘアの彼女は、首を傾げて笑顔を向ける。
「綺麗だったよー、真っ白なドレスに小ぶりでオシャレなチャペルで、フラワーシャワーも華やかで!」
「わぁ、いいな〜。やっぱり挙式はドレスですよねぇ」
「あーあ、私もドレス着たい!結婚したーい!」
話しながら思い出すのは、昨日の高校時代の友人の結婚式。
まるでおとぎ話に出てくるような、かわいらしいチャペルでの景色をはしゃぎながら説明すると、結婚に憧れる女の子たちはうっとりとイメージを膨らませる。
そんな一方で、黒木ちゃんは哀しげな眼差しで私を見た。
「でも私たちより一番結婚したいのは、凛花さんですよねぇ」
「うっ!」
「ですよねー……結婚式も参加するばかりで出費がかさむ一方ですもんね。引き出物のカタログギフトも、段々選ぶものがなくなってきたって言ってたし……」
「っ〜……うるさーい!皆してそんな可哀想なものを見る目で私を見ないで!」
悪かったですね、結婚に縁のない29歳独身で!
私がキーッと声をあげると、そこまでが話のひとつの流れ。皆はおかしそうにくすくすと笑った。
現在29歳……もうすぐ30歳の私は、独身。おまけに彼氏もなし。
平日はひたすら仕事に打ち込むばかりで、たまにの休日はひとりで悠々と過ごし、出会いもなければ恋が始まる予感すらもないという枯れた毎日を送っている。
気付けば自分より年上の先輩は皆、結婚や出産で退職。もしくは主婦業を優先できるよう経理部などの事務職へと移っており、この商品営業部にいる女の子は、全員私より年下。
ひとり取り残されるように働くうちに、自然とこの部署のまとめ役になっていた私は、それをネタに上司や若い女の子たちに突っつかれることもいつものことで、もう慣れた。