シルビア
不安、憂鬱、悩みへこみ。それらの気持ちを抱えながらも、とりあえず仕事はしなければならない。
「黒木ちゃん、全取引先に社名や住所の変更通知流したか確認して!葛西さんはあがってきた商品の最終チェック、それ以外の人は新作デザイン会議!」
「は、はいっ」
翌日から早速、私はいつものようにあれこれと指示をしながらフロア内を回していく。
なにか考えすぎそうになったときは、仕事に逃げるのがやっぱり一番だ。
元々この仕事が好きだったけれど、3年前のあの日から、私はずっとこうして仕事に助けられながら生きてきたのだと思う。
「三好さーん、俺と武田さんはどうすればいい?」
「ふたりも勿論会議に参加してください。商品の製作工程やこちらの狙いなど把握して貰えたほうが、営業も絶対やりやすいと思うので」
「はーい」
望とも、まぁ一応こうして話はするものの、その会話は確実に他人同士。
キビキビと指示をすると望はおとなしく頷き、武田さんとともに端の席に座っている。
同じアクセサリー事業部とはいえ、営業の望と武田さんは、基本的には営業部のフロアで過ごしているから四六時中顔をあわせるわけじゃない。
けれど1日に何度も顔をあわせるのはやっぱり気まずい。気にしないようにと思っても、気にせずにはいられない。
気にしない、視界に入れない、考えない、望のことは考えない……って念じてる時点で気にしてるから!あぁもう、なんなの私!!
「凛花さん?会議始めないんですか?」
「あっはい!じゃあ始めるね!!」
いけないいけない、今は仕事に集中!よし!
頭の中を切り替えて、私は席についた皆の真ん中の位置で、ホワイトボードを背にして立つ。