シルビア



「はいはい、口ばっかり動かしてないで作業してくださいよー」



皆で話していると、会話に割り込むように手をパンパンと叩きながらフロアに入ってきたのは、ふわりとした茶色い髪をツーブロックにした髪型の黒ぶちメガネの男性……葛西さん。

グレーのスーツを着たその体型は小柄で、163センチある私の身長と大して変わらない。



「言われなくても動かしてますぅー」

「そうだそうだー!ダサメガネー!」

「動いてないでしょ止まってるでしょ!ていうか誰がダサメガネですか!失礼な!」



女の子たちにブーブーと言われる彼は、これでも私より3つ年上で、この部署をまとめる主任という立場の人だ。

けれど、20代前半に見える童顔と長年営業をこなすうちに身についた敬語。更には女性たちの間で揉まれることで確立された、いじられキャラという立場の彼に威厳はない。



「もう、引越しまで時間がないんですから!いらないものは捨てる!必要なものは出すときに困らないようにわけて詰める!手早く!」

「はいはい、わかってますって」

「凛花さんまでそういう態度して!」



口うるさく言う彼の『引越し』の言葉。

そう、それはそのままの意味で、私たちの勤めるこの会社は、ここ立川のビルに入っているフロアから新宿にあるオフィスビルへと移転をする。



というのも、小さい会社ながらも長年少人数で必死に頑張ってきた。

けれどこの不景気のなか、ついに限界はやってきて、私たち『Lamia』は都内の大手インテリア会社に吸収合併されることとなった。



長年勤めてきた会社がなくなるのは寂しいけれど……でもこの仲間と、そのまま『アクセサリー事業部』として新しい会社に異動できるっていうんだからラッキーな方だよね。

うんうん、と自分を納得させながら目の前の段ボールの口をガムテープで閉じる。


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