シルビア
「12月の展示会のディスプレイ。いくら考えても全く思いつかなくて」
「あー、ネクサスの展示会?なんとなーく並べるんじゃダメなの?」
「ダメに決まってるでしょ。私たちは他社の人にも社内の人にもどんな存在なのかを認知されてないんだから。その展示会の結果が、今後のアクセサリー事業部の売り上げを左右するってことなのよ?」
「ふーん」と頷きながらも、その顔はわかっているのかいないのか。
まぁ、今までインテリアの営業をしていた人に、ましてや男に、今すぐアクセサリーのことを分かって貰おうとは思わない。
「葛西さんからも『インパクトある展示を』って言われたんだけど……どうも春らしいテーマが絞れなくて」
「うーん、そうだねぇ。春といえば卒入学、出会い、新しい環境……」
春らしい、花をずらずらと並べたものや、キラキラと目立つようなディスプレイを考えたりもした。
けれど、いずれも展示されたインテリアの中にあるスペースに並ぶと思うといまいちしっくりこないし、ありきたりな気もする。
それは望にも想像がついたらしく、長い指先で同じようにつり革につかまりながら「うーん」と頭を悩ませる。
「春はあたたかいし明るいイメージだけど、それをディスプレイにするとなると難しいねぇ」
「……まぁ、」
春は明るいイメージ、か。小さな相槌をうちながら、心の中では納得はできない。
……そうでも、ない。私にとっては、春は別れの季節だ。
3年前望がいなくなったのも、桜の咲く季節のことだったから。