シルビア
「でもまさか、あの大手の『ネクサス』に吸収されるなんてびっくりだよね」
「向こうがアクセサリー事業を立ち上げようとしてたところでうちの社長と出会って、ってやつでしょ?社長、経営能力はないけど運はいいよねぇ」
女の子たちが口々に言うその会社、『ネクサス』……正式には『ネクサス・ティーン株式会社』が、その吸収合併先。
シンプルからデザイン系まで、ベッドや棚などのインテリアや雑貨の販売を中心に、ルームデザインなども手がける、業界内では有名な大手インテリア会社だ。
正直うちの会社なんかより何倍も大きい会社で、そこに吸収されるなんて誰も夢にも思わなかった。
「向こうにはきっと、高収入でかっこいい人がたくさんいるんだろうなぁ〜……凛花さんも、彼氏作るチャンスですよ!」
「彼氏とかいーの!私は楽しく独身生活を謳歌してるんだから!」
「えーっ、でも恋したらもっと毎日が楽しくなると思いますよー?あ、もうこの際葛西さんとかどうですか?」
恋をして楽しい毎日を過ごしているのだろう、女の子のひとりに話題を振られ、葛西さんは「俺ですか!?」と少し頬を染めまんざらでもなさそうに笑う。
「いやぁ、俺も俺で楽しい独身生活を謳歌中なんですけど、まぁ凛花さんがそこまで言うなら付き合ってあげないことも……」
「結構です」
「ってバッサリ!!」
そんな彼のふざけているのか本気なのか、どちらにせよイラッとする態度を一蹴するようにバッサリと断る私の声は、部屋の中にはっきりと通る。
「やっぱりそんなにイヤですか、葛西さんとのお付き合い」
「やっぱり!?やっぱりってどういうことです……むがっ」
先程私語を注意していたにも関わらず、わーわーと騒ぐ葛西さんの口に手にしていたガムテープをべりっと貼れば、彼は「むーむー」と騒ぎやはりうるさい。