シルビア
第2章
◆「おめでとう」
よく晴れた、10月の空の下。
今日もパンプスをコツコツと鳴らし家を出れば、朝の駅前には同じように会社へ向かうべく駅へと吸い込まれていく、数多くのサラリーマンやOLたちがいる。
そんな人の波の中で不意に目にとまるのは、開店前の店の外を掃除する、書店の若い男の子。
白いシャツに茶色いズボン、黒いエプロン姿のメガネをかけた彼が、雑巾でドアを拭く後ろ姿に重なるのは、懐かしいあの日の彼。
その面影を振り切るように、足早に改札を目指した。
毎日朝と夜に通る、自宅最寄の駅前にある大きな書店。
チェーン店で都内にもいくつも店舗を持つその書店は、小説や雑誌、漫画、テキストまで幅広い種類の本を取り揃え、毎日かよっても何時間いても飽きないくらい。
そのためか、いつ行っても店内にはお客さんがいて、書店にしてはにぎやかで活気付いている印象のお店だ。
かくいう私も、そこにかよっていた客のひとり。
元々時代小説が好きで、江戸時代や明治時代を舞台にした話をよく読み漁っていた。
それに加え、この仕事についてからはファッション誌のチェックは欠かせない。年代、テイスト、関係なく雑誌に目を通しては今の流行りを見ているのだ。
そんな私にとって、仕事帰りにこの書店に寄って本を見る時間はたのしみのひとつ。
そこでよく、見かけている姿があった。
男女ともに皆同じ制服に身を包み、メガネや薄めの化粧など控えめな印象の店員が多いこの店。
その中で黒い髪を左で分けてワックスで形を整えたその男は、チャラチャラとした雰囲気でいつもいろんな客に声をかけていた。