シルビア
『あ、吉田さんいらっしゃーい。今日は休み?』
『村山さん、予約してた新刊入ったよー。ブックカバーつけるよね、しおりもつけておくね』
へらへらとした笑顔で、男にも女にも声をかけている。整った顔に明るい性格をした彼に、当然周りは嫌な気持ちにはならないのだろう。
皆に好かれており、人気者といった存在だった人。
けれど私が彼に感じたのは、そんな周りの受け取り方とは真逆。
……軽そう。
それが、最初の印象。
誰にでも優しいとか、人懐こいとか、聞こえはいいけれどどうせそれを口実に女の子を手当たり次第ひっかけているのだろう。
なんてかわいげのない勘繰りをして、嫌なイメージを持ち続けていた。
『はい、どうぞ』
けれど初めて声をかけられたその日から、少しずつ、少しずつ変わっていった印象。
『あっ、お姉さんいらっしゃい!今日も仕事帰り?お疲れさま!』
真面目に仕事をしている最中でも、私が来たことに気付けば必ず声をかけてくれて、真っ直ぐに向けられるかわいい笑顔。
『ちょっと、その呼び方やめてよ』
『えー?だって名前知らないんだもん。あ、じゃあ名前教えて?』
『……三好、凛花』
『凛花?わ、かわいい名前!俺望ね、宇井望!』
最初から呼び捨てだなんて馴れ馴れしいとも思ったけれど、その距離の近さが少し嬉しかった。
『これ新刊なんだけどさ、どう?江戸の町で商人が妖怪退治をしてーってやつ』
『面白そう。こういうの好き』
『あ、やっぱり。いつも買って行く本の種類的にこういうの好きだと思った!』
私が買う本の好みを知っていてくれて、どんなものが好きかを考えてくれる。私のために、選んでくれる。
そんな小さなことの積み重ね。
会う度、話す度に触れる、彼という存在に、心は次第に惹かれていった。