シルビア
……なんて、過去のことは忘れて。
今日も仕事に励むべく、やってきたオフィスビル。
ここ、新宿のフロアに移ってきて半月ほど。大きなこのビルを歩くのも最初の頃よりだいぶ慣れ、今日は白のパンツに紺色のパンプスを合わせた足元でスタスタと建物内を歩いていく。
「おはようございます」
アクセサリー事業部のフロアへ向かい廊下を歩きながら挨拶をすれば、他の部署の人たちからは「おはよう」と返ってくる声。
「柳下さん、おはようございます」
「……」
ところが、営業部の女性陣は柳下さんを始め皆して一言すらも返事はなく、ツンとした態度で去って行ってしまう。
相変わらず、嫌われてるなぁ……。
あまりにも露骨なその態度に、怒りとか不快だとかいう感情を通り越して笑えてきてしまう。
営業部との関係もこの通り、悪化はしていないけれど良くもならない状態が続いている日々。
まぁこれ以上悪くならないならこのままでもいいかな……無視されるのはやっぱりちょっとへこむけど。
そう複雑な表情を浮かべ、フロアのドアを開けた。
「宇井さぁん、この雑誌に載ってるスカート、ピンクと水色どっちがいいと思います〜?」
「んー?俺はピンク派かなぁ、ふわふわした感じがかわいいよね」
「宇井さんがそういうなら、麻美ピンク買おーっと」
……が、今度はそこには望相手に雑誌を片手にベタベタとくっつき話しかける織田さんの姿。
この光景も相変わらず……。
以前言っていた『狙ってる』というのは本当だったのだろう。
織田さんは毎日望がこのフロアへ来るたびにあんな感じで、あれこれと話しかけては体を寄せ、かわいさ全開でアピールをしている。
一方の望は、これまたいつも通りへらへらと飄々と、受け流しているけれど。
……でもって。
ちら、とその横を見れば、そんな織田さんを冷ややかな目で見る、黒木ちゃんを始めうちの部署の女の子たちの姿……。
これもまた、わりといつもの光景になりつつある。