シルビア
「三好さん出勤してるー?」
「はい?あ、武田さん」
すると、ドアからひょこっと顔をのぞかせたのは、今日は白いシャツにベージュ色のジャケットを合わせた武田さん。
茶色い髪をふわ、とさせた彼は私を見つけると「おはよう」とこちらへと向かってくる。
落ち着きがあり穏やかな雰囲気の彼は、こうみえて望と同じ歳らしい。先輩という貫禄のせいか、どう見ても歳上の雰囲気だけど……。
「宇井から少し話聞いたんだけど、展示会のディスプレイ、いいの思いついた?」
「あ……それがまだ全然思いつかなくて」
すみません、と苦笑いで頭をかくと、武田さんからはなぜか笑顔がこぼされる。
「なら丁度よかった。今週の日曜に、色んなアクセサリーメーカーや雑貨メーカーが集まる大きな展示会があってさ、よかったら参考にどうかなって」
「えっ、いいんですか?行きたいです!」
展示会!それなら確かに、参考にするにはちょうどいいかもしれない。ついでに他社の情報も仕入れられるし……断る理由が見つからず、私は迷わず頷いた。
「じゃあせっかくだし、葛西さんとかにも声かけておこうか。皆で行った方が色々意見も出るだろうし」
「はい、よろしくお願いします」
それだけを話すと、武田さんは話を切り上げ颯爽とフロアを後にする。
暇さえあればへらへらと無駄話をするどこかの誰かとは大違い。気にかけて展示会の話まで持ってきてくれるなんて……いい人。そりゃあ結婚も出来るわけだ。
去っていくその頼もしい後ろ姿に、うんうんと納得出来てしまう。
今週の日曜……ってことは、誕生日当日。
日曜にも関わらず仕事の予定で埋まるなんて悲しい気もするけれど、なにもせずに1日が終わるよりはいい気もする。
ええい、この際誕生日なんて仕事で忘れてやる!
そう気合いを入れると、今日の仕事を始めるべく自分のデスクへと向かった。