シルビア
「葛西さんがイヤっていうか、そもそも私職場恋愛とかイヤなの」
「えぇー?いいじゃないですか、オフィスラブ!仕事中にこっそり渡す今夜の約束を書いたメモ、階段の隅で交わすキス……きゃー!素敵!」
「なんで家でも職場でも同じ顔見なきゃいけないのよ、飽きるわ」
キラキラと輝く綺麗なアクセサリーの資料を目の前にして、口から出るのは現実的で夢のない言葉。
うっとりと憧れを語る女の子たちにも容赦なく言うと、その場の全員からはぶーぶーと不満があがった。
「凛花さん夢がなーい、現実的ー」
「そうですよー、現実ばっかり見てちゃ幸せが逃げちゃいますよー?」
「皆が夢見過ぎなの。さ、そろそろそっちの段ボールから下に運んで行こ」
ガムテープが肌に張り付いて痛いのだろう、必死にはがそうと苦戦する葛西さんを放置し、私はデスクの上に置かれた『資料1』と書かれた段ボールへと手を伸ばす。
「あ、その荷物かなり重いから葛西さんに運んで貰おうと思ってたんですけど」
「いいよ、私が運ぶ」
うん、確かに重い。けど運べない重さではない。
ずっしりとした段ボールをいとも簡単にひょいと持ち上げ、廊下へとスタスタと出て行った。
「さすが凛花さん、たくましい……」
「男顔負け、ってかんじだよねぇ……」
皆のぼやく声を、背中で聞きながら。