シルビア
「すごい……綺麗、これって造花ですか?」
「はい。本物に近い見た目の質感を意識して作っております」
「本当に、本物みたいですね。これは雑貨屋さんで見かけたらつい買っちゃうかも」
手にとり花びらのツヤや柔らかさを確かめながら見れば、花はミニブーケとしてやギフトボックスに詰められたりなど、工夫を加えられたものもある。
ああいう形ならもらったまま部屋に飾ることも出来るもんね。うん、やっぱり素敵。
「あちらでサンプルの販売もしております、いかがですか?」
そのメーカーの女性に案内されるまま向かえば、そこには小さな四角い箱に3輪ほどの真っ赤なバラと緑の葉が飾られた、ギフト用のサンプル品が並んでいる。
バラの深い赤色に、散りばめられたアザランのような銀色のビーズが、高級感を感じさせてなんとも綺麗。
「わ……かわいい」
「あくまでサンプル品なので、まだ企画段階の商品なんですけどね。一箱1000円です。ピンク色もありますよ」
かわいい、ほしい。こういったデザインのものがとてもタイプな私の心は一気に揺らぐ。
……けど造花とはいえ自分用にバラを買うって、どうなの。しかも、誕生日に。
まじまじと見ながら、心の中の葛藤が顔に出ないようにこらえる。すると少し後ろを歩いていた葛西さんは、笑いながらこちらへと寄ってきた。
「凛花さん、そういうの好きなんですか?買ってあげましょうか」
「結構です。葛西さんからバラの花を贈られるとか、なんか気持ち悪い」
「気持ち悪いって!ひどい!!」
自分でからかうように言ってきておきながら、こちらの返事にまたわーわーと騒ぐ彼に、一度は手に取ろうとしたものをやめ、体の向きを変えてそのブースから歩き出す。
ほしいけど、よくよく考えれば織田さんや望のいる今この場で自分でバラの飾りなんて買おうものなら
『プレゼントしてくれる人もいないんですかぁ?』
とか言われそうだし……うん、やめよう。
いつかどこかの雑貨店で出会ったら絶対買う……!
涙を飲んで諦め、なにげなしに左手首の腕時計を見れば、時刻はすでに13時すぎ。
お昼の時間をそれなりに過ぎていることに気付いた。