シルビア
「そろそろご飯でも食べる?」
「そうですね。確か向こうにフードコートが……わぁっ!」
そう話しながら歩き出そうとした、その時。
葛西さんは目の前のブースのテーブルにぶつかり、積んであったフライヤーやカタログをその場にバサバサと落としてしまった。
「す、すみません!」
「あーあ、もうなにしてるんだか……」
「うわ、大丈夫?拾うの手伝うよ」
床に散らばる何十枚というフライヤーに、少し離れた位置にいた望も急いで駆け寄り、それをかき集める。
ちなみに織田さんは後ろで立って「大丈夫ですかぁ」と言うだけで手伝おうとはしない。ある意味とても彼女らしい。
「もう葛西さんってば、ちゃんと前見て歩かないから」
「す、すみません……」
「あはは、本当ふたりってどっちが年上なのか分からないよねぇ」
なんてことない会話をしながら一枚、一枚と拾い集めていく。
すると偶然、私が取ろうとした一枚と望むの取ろうとした一枚が一致したらしく、紙を掴んだ私の手に同じタイミングで望の手が重ねられた。
「……!」
一瞬、そっと触れた大きな手。
重なる肌と肌の感触に、ひやりと伝う低い体温。初めて感じるものではないその手のぬくもりに、感情は一瞬で全身を駆け巡る。
それはつい抑えることは出来ずに、衝動的にこぼれ出した。
「やっ……!!」
あげた短い声とともに、咄嗟にバッと手を振り払う。
突然のことに一瞬辺りは静かになり、その場に居た人全員の視線がこちらに向くのを感じた。
それはもちろん、目の前の望の目も。驚いたように瞳を丸くして。