シルビア
「……あ……」
私、今……思い切り、拒んでしまった。
「ご……ごめん、なさい」
「ううん、いいよ。ごめんね、手当たってびっくりしたよね」
珍しくすぐ『ごめん』の言葉をこぼした私に、望は驚いていた目をいつものように細めて笑うと、軽い様子で言って残りの紙を手早く拾い終えた。
「……私、ちょっとトイレ行ってくる。先、フードコート行ってていいから」
立ち上がり、それだけを短く言うと、足早にその場を去る。
どんな顔を見せたらいいかが分からなくて、私はただ逃げるしか出来ない。
あの日以来、3年ぶりに触れた肌。
変わらず冷たい、ごつごつとして骨っぽく、細長い指をしている望の手。
触れた瞬間振り払ってしまったのは、嫌悪?
……ううん、違う。意識、だ。
そう自覚すると、心がドクン、と強く音を立てた。
けど……さっきのはあまりにも露骨すぎたかな。感じ悪かったよね。
トイレから戻り、フードコートへ向かう通路を歩きながらようやく落ち着いてきた気持ちに、冷静に考えれば先ほどの自分の態度はいかがなものかと反省する。
ただ偶然、手が当たっただけ。それなのに……あんなに勢いよく払ったりして。
周りもなにかと思っただろうし、それに。思い出すのは、望の驚いたようなあの顔。
……驚いたかな。
嫌な奴だと、思われたかな。
別にそう思われたっていい。寧ろそこまで思われて距離が出来たほうが、私の心は平和だ。
そう思いながらも、少しへこんでいる自分。