シルビア
「へー。でも、本当にそうかなぁ」
「え?」
ところが次に聞こえてきたのは、望の声。
それって、どういうこと?
予想もしなかった望の一言に意味がわからずにいると、織田さんもキョトンとするように首をかしげる。
「俺は、彼女はそういう理由で誰かに当たったりする人じゃないと思うけど。言い方はきつくても、いつも周りの空気読んでいろいろ考えて、自分の気持ちは抑える人だから」
「で、でも……」
「それにさっき手を払ったのも、親しくもない異性に触られればああいう反応になるのも当然だしね」
……望……。
織田さんの言っていたことに対して、私のことを誤解のないように話してくれる。
いつもあれこれ考えて、なにも言わずに終わらせてしまう私のことを、きちんと分かってくれている。
その言葉ひとつひとつが、彼が私を知ってくれている証。
そう思うと、この心は自然と穏やかさに包まれてしまう。
嬉しい、素直にそう思えた。
「それに、あんまりそういう愚痴とか言わないほうがいいんじゃない?」
「なっ!べつに愚痴なんて言って……」
思い切り言っているけれど、無自覚なんだろうか。
『言っていない』と否定しようとする彼女に、望は右手の人差し指でちょん、と唇に触れて黙らせる。
「折角かわいい顔してるのに、そんな話似合わないよ」
にこ、と甘い笑顔を見せて。
「っ〜……はぁいっ」
側から見ればあざとい気がするその仕草にも、織田さんは心を掴まれたのだろう。目をハートにしてうんうんと頷く。
って、あんたはホストか……!
『かわいい顔』だとか、よくもまぁそんなに普通に言えるものだ。さすがチャラい男。女好き。
……でも、ずるいなぁ。
いないところで、こうして庇ってくれるなんて。嬉しいとしか、思えないよ。
あぁ、もうまた心が引き寄せられていく。
そんな心を、振り払うように歩き出す。
「お待たせ」
「おかえり。三好さん昼飯なに食べる?カツ丼?中華丼?海老丼?」
「なんで丼物推しなのよ」
悔しい、悔しい。
彼のそういう優しさに、心惹かれた日々がよみがえる。
その感情は、消えることなく。