シルビア
「凛花!」
「え?」
その時、突然呼ばれた名前。
振り向くとそこには私を追いかけるように改札を通り、こちらへ駆けてくる望の姿。
「望……?」
あれ、葛西さんと地下鉄のほうに行ったんじゃ……?
どうしたんだろうと足を止めると、急ぎ足で追いかけてきたのだろう望は、「はぁっ」と息をあげて私の前に立った。
「なに?葛西さんからなにか頼まれた?」
「いや、そうじゃなくて……これ、渡したくて」
「へ?」
これ、?
望がそう差し出してきたのは、少しシワがついてよれてしまった白い紙袋。
なに……?それがなにかが全く見当もつかず、袋を受け取りそっと中身を見る。
そこにあったのは、昼間展示会の途中で私が見ていた赤いバラの造花。
あの場にあったものと全く同じ、深い赤色をした3輪のバラに緑の葉、キラキラと光る銀色のビーズをちりばめたもの。
「これ……なんで、」
「さっき展示会で、欲しそうに見てたでしょ?だから合間に買ってきて、鞄にしまっておいたんだ」
「わざわざ……?」
「わざわざってほどでもないでしょ。それに、今日凛花誕生日だし」
『誕生日だし』、その言葉に思わず驚く。
だって、覚えてくれているなんて思いもしなかった。
「……覚えて、たの?」
「当然、俺の記憶力なめないで。誕生日も、凛花が昔からこういう雑貨が好きなことも、全部覚えてるよ」
へへ、と得意げに笑う表情は、まるで子供のよう。
自信を持って言い切れるほど、しっかりと覚えてくれていた。そのことに込み上げるのは、驚きと嬉しさ。