シルビア
「貰って。いらなかったら捨てていいから」
『捨てていいから』、いつも彼が私になにかを渡す度についてくる言葉。
その言葉を聞く度に、あくまで押し付けがましくないように、と気遣うその性格の繊細さを感じられる。
嬉しい、とても嬉しい。
心はその気持ちで溢れるのに、言葉に素直に表すことはできず、黙って袋をぎゅっと抱える。
そんな態度から、私が嫌々受け取っているわけではないと察したのだろう。その顔は嬉しそうに微笑む。
「誕生日、おめでとう」
まっすぐに伝えられた、その一言。
私の誕生日、好きなもの、こういうことをひとつひとつ覚えてくれているところ。それに加えてその笑顔がまた、この心をぐらりと揺らすんだ。
その揺れに耐え切れず、紙袋を握る手に自然と一層力が込もる。
「じゃあ、俺行くね。これ、渡したかっただけだから」
「あっ、えと……」
言わなきゃ。
『ありがとう』、って。『嬉しい』、って。
素直に伝えなきゃ。そう思うのに、やっぱり気持ちはうまく言葉に現れてはくれない。
「ん?どうかした?」
「……なんでも、ない。お疲れさま」
結局言いたい言葉を飲み込んで誤魔化してしまった。
そのことに気づいているのか、いないのか、望は「うん、お疲れさま」と手を振りまた改札を出て行った。
言えなかった、『ありがとう』って。
この花のことも、さっきの織田さんとのことも。伝えたいことは沢山あるのに、なにひとつ言えない。
……でも、覚えてくれていたんだ。私の、誕生日。
すっかり忘れられているとばかり思っていた。覚えていたところで、そんなこともあったなって思われる程度だと思っていた。
だけどこうして、『おめでとう』を伝えてくれた。
「……しかも、赤いバラって」
ただの偶然。私がほしがっていたことを感じ取ったからくれただけで、それ以上の意味なんてない。
そう分かっていながらも、その花の意味を深読みしたら、嬉しさを隠さずにはいられない。
歩き出す、疲れ切った足。紙袋の中で揺れるのは、真っ赤なバラと緑の葉。
赤いバラ、その花言葉は
『あなたを 愛してる』