シルビア




恋にときめいたり憧れたり、結婚を夢見たりしていた時期は私にだって当然あった。

けど、30歳手前にして私はさとった。誰でも当たり前に結婚出来るわけじゃないということ。



おとぎ話のように、白馬の王子様がダイヤの指輪を持ってきてくれるわけもない。

時には、白馬の王子様が白馬に乗り直して逃げ出すこともあるということを。





段ボールを持ち通りがかった狭いフロアを見れば、少し古びたビルの中、荷物の移動を終えた総務部のフロアは物もなく人もおらず、がらんとしている。



……本当に、ここでの仕事は終わりなんだ。

10年前に新入社員として入社した時、いつか社員としてバリバリ仕事をこなして、好きな人と結婚をして子育てと仕事を両立させる、なんて夢を見ていた20歳の私。

だけど今、こんなにも虚しい気持ちでこの場所に立っている。



「ていうか、この荷物本当に重い……」



平気だと持ってきたはいいけれど、その重みにだんだんと手がじんじんと痺れてくる。

やっぱり誰か呼んで手伝ってもらおうかな……。そう一瞬思うものの、その思いをすぐ振り払う。



ううん、いい。大丈夫。

誰かに頼ったり甘えたり、そんなのはごめんだ。なんでもひとりで出来るよう、強くならなきゃ。

強く、たくましく。何事にも、寂しさや弱さに負けることなく。





……というのも。

実は私は、彼氏に逃げられたことがある。



まさかの、ドラマみたいな本当の話。

数年付き合い結婚を約束していた彼氏は、朝起きたら消えていて、まともな別れ話もせずにいなくなってしまった。



それは、もう3年も前のこと。





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