シルビア
「3年って、意外と長いですねぇ」
「それがその元彼とやらに相当お熱だったらしくて。別れたショックを今だに引きずってるんですよねぇ」
「か、さ、い、さ、ん!!?」
また余計なことを!ベラベラと!!
手にしていた飲みかけの缶を黒木ちゃんへと任せると、私は武田さんの後ろに隠れる葛西さんの頬をぎゅううっとつねった。
「へぇ、相当お熱だったんですか」
「なっ!!」
それまで黙って聞いていた望は、葛西さんのその話ににこにこと笑う。
あぁ、もう絶対あとで『俺のことそんなに好きだったんだ?』ってからかわれる……!
そりゃあ、その頃はそれなりに本気だったけど、でもっ……あーもう!このお喋り!!
恥ずかしさと恨めしさで、より一層強い力で頬をぎゅうううっとつねれば、葛西さんは「いったあああ!!」と半泣きで悲鳴をあげた。
「ってことは相手にフラれちゃったんですか?」
「まぁ、フラれたというか……喧嘩別れ、というか」
興味深そうに問う黒木ちゃんに、どう話すべきか、うーんと頭を悩ませる。
まさか『喧嘩した末にいなくなった』とは言えないし……喧嘩別れ、それが一番いいかもしれない。
「喧嘩?じゃあもしかして、フラれたことっていうよりその時のことをまだ引きずってたり?」
「え……」
引きずって、いる。
あの時のこと、きちんと終わることの出来なかったふたりのことを。
あの時終わらなかった気持ちは、今もそのまま。終われずに、次に進むことも出来ずに。
こころの中心にずしりとくる武田さんの一言に、動揺しかけた自分のこころをしっかりと保つ。
「ま、いいのいいの。どうせ浮気してたみたいだし!あんなダメ男こっちから願い下げ!」
自分自身に言い聞かせるように笑ってみせる。けれど、隣ではそれまで笑っていた望の目つきが変わるのを感じた。