シルビア
「ふーん……そういう思い込みはよくないと思うけど」
「え……?」
「相手に確認したの?自分以外に相手がいるのか。それもまともに聞かないで、浮気してたかなんて分かんないじゃん?そうやって思い込んでイノシシみたいに突っ走るからダメなんだよ」
なっ……!
確かに、確認するというか一方的に責めて望の話なんて聞かなかったけど……だからって、イノシシって!
自分のことを『ダメ男』と言われたことが気に食わなかったのだろうか、途端に望はやや喧嘩腰のような言い方をする。
この態度の時は、望は大体イラついている時だ。
だけど、そんな言い方をされれば、こちらだって更にカチンとくる。
「はぁ?誰がイノシシよ。浮気してるんでしょ、って言っても否定しなかったんだからしてると思っても仕方ないでしょ?」
「否定も肯定もしなかった相手を『浮気してた』って決めつけるのはどうなのって言ってるんだけど」
あの日望は、否定も肯定もしなかった。けど、私はちゃんと否定してほしかった。
違うよ、私だけ、って。ごめんね、なにかの間違いだよって。
だけどそれすらもないということは、認めるということだ。
「相手はちゃんと一筋だったかもしれないじゃん、それを信じられないってどうなの?」
信じられない。疑ってばかり。
だから、嫌になったの?だから、いなくなったの?
他の女に贈る指輪を忘れるくらい、慌てて。
「……どうだか。今更一筋だなんて言われても信じられるわけないでしょ。それに、女と一緒に部屋引き払ってたらしいし」
「それは……」
先ほどまでの和やかな空気はどこへやら、その場に漂うのはピリピリとした空気。
お互い怒りに任せ言い合いながらも、『元彼氏は望以外の他人』というていで話しているのがなんだかおかしい。
けれど、はっと今この状況を思い出し周りを見れば、ぽかんとした様子でこちらを見る葛西さんと黒木ちゃん、そして武田さんの姿……。