シルビア





「望」



皆のもとを離れ、急ぎ足で望を追いかければ、廊下の先にいた望は私の声に足を止める。

こちらを向く瞳は、先ほどの苛立ったものとは違いいつも通りの表情。



「あれ、凛花……どうしたの?」

「……あの、」

「ん?」

「さっきは、言いすぎた。……ごめん」



ぼそ、と呟いた『ごめん』の一言。その言葉に、望は丸い目をさらに丸くさせ、その顔を驚きに変えた。



「め、珍しい……凛花が、謝った」

「珍しいってなによ!私だって謝るときはちゃんと謝るもの!」

「だっていつもなら俺が謝るまでヘソ曲げたままじゃない?」

「……そうだけどさ」



反論出来ずふてぶてしく頷くと「否定しないんだ」とおかしそうに笑う。コロコロと変わる表情が、やっぱり眩しい。



「俺も、ちょっと言いすぎてごめんね。凛花はイノシシじゃなくてメスライオンのほうが近いよね」

「は!?」



って、そっち!?

失礼!と怒ろうとした私に、望は体の向きをこちらに変えて、一歩私へと近づいた。

そして手を伸ばすと、「髪、食べそう」と私の口元の毛先をそっとつまむ。


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