シルビア
「ちょっとイラついてたかも。凛花が俺のことダメ男とか言うから」
「事実でしょ」
「えー?ひどいなぁ、俺本当に凛花一筋だったよー?」
「なにを今更」
へらへらとした言い方の望に、ついまたツン、と冷たく言ってしまう。
「あはは、確かに今更だね」
その瞬間、不意に彼が見せた表情は、笑顔。
けれど、それはいつものにこやかなものとはどこか違う、泣き出しそうな悲しげな笑顔。
『今更』、その言葉を口にしながら手を離す瞬間に見せた表情が印象的で、どうしてかスローモーションに見えた。
けれど次の瞬間にはパッといつも通りの笑顔になる。
「じゃあ俺トイレ行ってから打ち合わせ戻るから、先に行ってて。あ、それとも一緒にトイレ行く?」
「わけないでしょ。先に上戻ってる」
「はーい」
そしてあははと笑いそのまま真っ直ぐ行く望に、私は上のフロアへ行くべくすぐ近くの階段を曲がった。
ひとり残ったこの心には、ずしりと残る変な気持ち。
なに、さっきの顔。
泣きそうな、悲しそうな、表情。
どうしてそんな顔をするの?
その表情の意味すらも問いかけることも出来ずに、どうしてか私が泣き出しそうだ。